冬の訪れと卒業式

私は平日は、帰りが夜遅くなることが多かったため、一年の大切な行事だけは、必ず外さないようにしていた。千恵もそれをよく分かっていた。

千恵と娘のご機嫌をとるために、毎年のように家族で海外旅行に出かけ、写真をいっぱい撮ってアルバムにしていた。娘が家を出た後、アルバムを見返すことを楽しみにしていた。

あるとき些細なことから喧嘩をしたことがあり、半年ほど口を利かなかったことがある。二人とも強情で、負けん気が強かったせいか、相手に対して、絶対頭を下げなかった。

慎重派の千恵と楽天家の私とでは、考えや意見も随分と違っていたが、強情なところは共通していた。

左胸の痛みが治まらないため、千恵が独身時代に通った、実家に近いところで診察することにした。病院に行く車の中は、重苦しい空気が漂っていた。

「今日のお昼は何を食べようか? 帰宅途中でレストランにでも入って、ランチを食べよう」と私から切り出してみたが、返事はなかった。

病院に到着した。その日は金曜日で、待合室は混雑していた。名前が呼ばれ診察室に入っていった。十分もかからず、診察室から出てきたため、何もなかったので良かったと安心しきっていた。

「どうだった?」と聞くと「これから、MRIの検査」

間もなく、再び名前が呼ばれ、検査室に入っていった。やはり何か異常な状態になっているのではないかと胸騒ぎがした。

検査室から千恵が出てきた。何もないだろうと思っていても、検査の結果を聞くまではやはり不安が募る。