日傘の影が地面に焼きつく午後。赤い外車の運転席で、彼はサングラスを外して自信のある笑みを浮かべた。
車体を下げた車は、他の車の下にもぐるように走った。カマキリのような細い腕でハンドルを操って、トラックを追い抜き、駐車場をショートカットして市街地を進む。
彼は車内に流れる洋楽を高音の鼻歌でなぞっていたが、下校中の中学生たちを見ると顔色を変えた。
「まずいな」
気づかれなければいいけど、と言いながら、慎重に列の横をすぎていく。小麦色の肌をした子供たちは屈託なく笑っていた。
教師という話は本当だったのだろうか。もしこれが役作りのためにやっている無意味な努力だとしたら、私はそれに報いなければいけないのだろうか。
コンビニで、酒とサラダチキンを買って部屋に上がる。キッチンから続く広い一間の隣には、マットレスに布団を敷いた簡易的な寝台があった。
「煙のにおいする? この前、友達と焼肉パーティーしたんだよね」
全然しないですよと言いながらソファに座ろうとした時、テーブルに放られた郵便物が目に入った。修二という漢字に、次男だろうかと勝手な想像をしたあと、ローカル番組を眺めた。
「こんな広い部屋に一人暮らしなんて、頭おかしいと思うやろ」
肌色のチキンと黄緑色のレタスをあえながら、シュウジさんは言う。
「そんなことはないですよ」セイヤさんもこれくらいの部屋に一人で暮らしていた。
二十三の時に結婚して借りた部屋に今も住んでいて、一人になってからはたまに母親が掃除しに来てくれると言っていた。
「結婚を前提に五年つきあっていた彼女がいたんだけど、別れてさ」
「そうなんですね」
宅配ピザはあたたかく、とろりとやわらかかった。
「どのくらい前?」
「一年くらいかな。この部屋は広すぎるから、引っ越そうかなって」
職場が近いから便利なんだけどね、と名残惜しそうに言いながらホームシアターの電源を入れる。