6 転倒

■2021年12月26日

とても悲しい一日だった。昨夜、妻が歩行器をつけていることに私は一瞬気を緩めた。妻は洗濯物を干す部屋で後退した際に、バランスを崩して後ろ側に転倒した。

幸いにも後ろには布団を入れた硬質プラスチック製の箱があった。大きな音を立て箱は壊れたが、身体に装着したコルセットが全ての力を吸収した。全ては一瞬の出来事だった。

九死に一生とはこのことか。しかし、万が一、壊れたプラスチックの角が頭部に刺さっていたら、いや、そこに何も支える物がなかったら? 頭部と腰椎、更に脚も損傷している妻には全てが致命傷になる。

「ごめんなさい」と詫びる妻が不憫で、不憫で。私は「見逃したのは俺だ。本当にごめん」と妻を優しく抱きしめた。身体に大きな支障がないことが分かり、ホッとした。その瞬間、涙が溢れた。

整理整頓。この言葉が骨身に染みた。妻は転倒しない身体を早く取り戻すため、ますます筋トレに力を入れ始めた。筋トレの夜は高熱が出る。骨盤が大きく痛む。マッサージを入念に実施した。

妻が寝静まった暗い部屋。椅子に掛けたコルセットに触れてみた。「妻を守ってくれて本当にありがとう」と労いの言葉を掛けてみた。彼は「使命を全うしているだけだ」と静かに語るように、月の光に照らされていた。

7 模擬階段での昇降訓練

■2021年12月28日

病院のリハビリ室。改めて階段での昇降訓練を実施した。一連の流れを確認し歩行器から松葉杖、松葉杖からスティックに移行していくイメージを作った。しびれや痛みは残るが、趣味など生きる希望を持たせ神経をそらす工夫を明日から開始したい。