其の一

夜は更けていった。深夜になっても車の数は減らなかった。むしろ大型車が増えて危険度が増した。それらが通過すると地響きがして風圧で身体が煽られた。骸骨はどうしてもそれに馴れることが出来なかった。その度にトンネル壁にへばりついて見送り、傍にいる仲間たちの失笑を買った。

ヘッドライトの行列を迎えては停める。すると反対側から低いエンジンの唸りが近づいて、やがて赤いテールライトの連なりが去っていく。そうして毎夜何百台、何千台の車を送っては迎えるのだろう。

流石に頭の芯が疲れてきた頃、空がほんのりと白み始める。そして少しずつ辺りが明るくなり、やがて車の灯火が目立たなくなる。すると反対車線のすぐ向こうに青々と海が見えてくるのだ。

それが骸骨の一番好きな時間だった。その頃わずかだが車の流れが途切れ、時々海と空の色合いを楽しむことが出来た。だがやがて朝の通勤ラッシュが始まった。大型車が潮の退くように減り、代わりに乗用車が雲霞の如く群らがってくる。

そうなるとあと一息だった。目まぐるしく車を捌いていると不意に肩を叩かれる。

「お早ようさん、ご苦労様でした」

そう言って朝勤組が現われるのだ。

骸骨は煙草を吸う真似事なぞをしてちょっと現場を振り返る。そうして一日の仕事が終わった解放感を味わうと、市内へ戻る車に同乗した。