父が亡くなってから母は女手ひとつで僕を一生懸命に育ててくれた。でも振り返ってみると母が不自然なほどに父のことを語らなかったことが、友達と比べて僕の中で何か欠けていると思ってきたことと関係があるような気がしてきた。
自然に心を開ける友達がいない。どうしても距離を作ってしまうのだ。自分の核を形成しているパーツが欠けているのだ。そのせいで、自信が持てないのかもしれない。
携帯が鳴る。ラインで京子がメッセージを送ってきた。
「ねえ、日誌あった?」
「ない」
「ないんだ。どこにあるのかな?」
「母が隠した気がする」と確信を持って言う。
「なんで?」
「なんでも」
「教えてよ、ちゃんと」
「母は何も父の仕事について言わなかったんだ。それは言わなかったのではなく、言いたくなかったからじゃないかと思う」
「どうして言いたくなかったの?」
「わからない」
しばらく沈黙が続く
「ねえ、もしかして……」
「何?」
「なんでもない……」
「何か気がついたなら言えよ」
「うん、お父さん、研究の調査をしている時に事故で亡くなったんだよね」
「そうだよ」
「もし日誌があったら、健がその日誌を見て、事故があった場所とかに行きたくなるので、それが嫌だったとか」
自分でもそうかもしれないと思うことを京子に言われた。
「捨てちゃったのかな?」
「母の性格からいって父が人生をかけてやった仕事の日誌を捨てられなかった気がする」
「じゃ、探してみよう!」
「そうだね。まず、ヒントが家にないか調べてみる」
【前回の記事を読む】ゴミ同然となった母の遺品のなかにひとつ、心をどきどきさせる鍵をみつけた……