小さな引き出しには銀行通帳などが入っている。そこに鍵とカードが一対にされている見慣れない物があった。なんだ、これは……貸金庫の鍵らしい。

母の荷物を整理していて何も感情が湧かなかったが、この貸金庫には何かが入っているのではと思って初めて心が動いた。そしてその直感はあたった。

貸金庫の中身を確認するため銀行に来ている。パスワードは母が癌になってから預金を下ろすため聞いていた。そのパスワードを入力して貸金庫内に入る。ずらっと同じサイズの金庫が並んでいる。

カードに書いてある番号を探すが、なかなか見つからない。奥にある大きなサイズの金庫の方に行くとあった。これはかなり大きな金庫だ。どきどきしてきた。鍵をさして回す。そして金庫を外に出し、個室へ運ぶ。かなり重い。

ワクワクしながら開けるが、中を見てがっかりした。そこには、父からでももらったのだろうか5つの指輪と古い外国の金貨と土地や建物の権利書があった。その中には、全く知らないマンションの権利書が入っている。そのマンションのものらしき鍵もある。僕はその鍵と権利書だけ持ち帰った。

家に帰ると、居ても立っても居られずに、その権利書に書かれている住所のマンションを探しに行った。家からそんなに遠くない場所だ。オートロックの玄関があるマンションではあるが、セキュリティに優れているマンションとは言い難い。

玄関の鍵穴に持ってきた鍵を入れてみる。開いた。中に入り、6階にある部屋へエレベーターで上がる。ワンルームの部屋が多いのか、各フロアで見かける住人は若い人が多い。601号室の前に来る。

鍵を入れて、ドアノブを回し、中に入る。まだ昼なのに真っ暗だ。何年も使ってないのはわかるが、凄くカビ臭い。ライトのスイッチを手探りで探す。あった。そして電気をつけて僕は絶句した。

部屋には全方向に本棚があり、本や資料でびっしりと埋まっている。全方向にある本棚のせいで、昼でも明かりが入らなかったのだ。部屋の真ん中にある大きな作業机のようなものには、古い地図が置かれている。
 

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