第一章 母の死と父の面影
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それにしても父が死んでから10年間全く使ってなかったのだろうか。ほこりやちりも凄い。父は考古学者だったから、ここは作業や研究に使っていたのだろう。父の几帳面な性格がわかる。
本は綺麗に整頓されているし、わかりやすく分類もされている。まあ、今の自分ではこの分類が何を意味しているのかはわからないが、とにかく入って左にある本棚の本から見てみる。
驚いたことに中国語の本も多い。運が良いことに大学の第二外国語が中国語だったため全くわからないということはない。
それでも辞書は必要だ。携帯でも調べられないことはないが、パソコンを持ってきた方が早いと思ったし、今日は持ってきてなかったので、いったん引き揚げることにした。
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あれから何日になるだろう。父の研究部屋に来て、トイレとコンビニに食事を買いに行く以外は、ずっと本や資料を読んでいる。資料には絵や図や家系図が多く含まれているが、これが何を示しているのか見当もつかない。
チンギス・ハンの家系図だということはわかったが、どの資料とどの資料が関係しているのかもわからないし、当時の中国やチンギス・ハンの知識も全くない。それでもジグソーパズルのように後半になれば加速度的にピースとピースがつながっていくことを期待して資料を見続けている。
携帯電話が鳴る。京子だ。
「健、もう1週間も学校に来てないみたいだけど、どうしたの?」
「ちょっとやらなければならないことがあって、学校に行ってる場合じゃないんだ」
「えっ、まじめな健が学校をこんなにさぼるのは珍しいわね、何をしているの?」
「父が残したノートや資料が出てきたんだ」
「お父さんのノートや資料って何? 日記みたいなもの?」
「まだ、よくわからないんだ。中国語や知らない文字で書かれている資料ばかりなんだ」
「ねえ、健に言ってなかった? 私の家系は由緒正しい中国の家系だったので、小さい頃から中国語を習っているの。私が行って見てあげるよ」
「本当に? 京子、第二外国語フランス語じゃない?」
「だから、中国語を第二外国語にする必要がないほどのレベルなのよ」
「それじゃ、住所をメールで教えるから、授業が終わってからでいいから、来て」
そういえば由緒正しい中国の家系だという話は、昔聞いたことがあったが、聞き流していた。京子が中国語に精通しているのはラッキーだ。メールを京子に送ってから、急におなかがすいて、コンビニに弁当を買いに行った。
インターホンが鳴る。京子だ。部屋に入ってきた京子も驚いている。
「凄い……」
「だろ、最初に入った時は、息を呑んだよ」
「これ全部、お父さんの研究なのね。さすがは考古学者だわ」
「とにかく本や資料を見てくれないかな。どうやらフビライ・ハンの本や資料が多いのはわかった」