星に話をするおばあさん
「雨が上がって、にじが出ました。空にかかる橋のようでした」
お姉さんが、最初(さいしょ)に聞かせてくれたのは、「にじ」の話でした。小さな星は、にじに、いろいろな色があることを、知りません。でも、お姉さんの話を聞いて、空にうかびあがる色がついた橋を想像すると、ワクワクしてきました。いつのまにか、にこにこわらっていました。
「あの星、いつもよりキラキラ光っているね」
その夜、空を見あげて、小さな星を見つけた人たちは、だれもが、そう思いました。
それからというもの、小さな星は、いねむりをしなくなりました。
お姉さんの話は、小さな星だけでなく、夜空の星たちみんなが、聞くようになりました。
「今日は、どんなお話かな?」
「早く、ゆりいすにすわらないかな?」
星たちは、暗くなりはじめると、そんな話をしながら、待ちました。
お姉さんは、そうやって、晴れている日は、ゆりいすにすわって、星たちに話をしてきました。
気がつくと、六十年もたってしまいました。お姉さんは、すっかり、おばあさんになってしまいました。
小さな星は、相(あい)かわらず小さいままですが、少し、お兄(にい)さんになりました。そして、おばあさんの話を、いつも、一番近くで聞いています。
おばあさんの話は、ますますおもしろくなり、今まで来なかった遠くの星まで、話を聞きにくるようになりました。
ある日のことです。
「もっと、向こうへ行ってよ」
「話が、よく聞こえないだろ」
星と星がけんかを始めました。星がけんかをすると、雲がおこって出てきます。そうすると、星が見えなくなります。
「これはこまった、大変(たいへん)だ」
おばあさんは、雲が出てくる前に、けんかを止めようと、いつもより大きな声を出して、たくさんの話をしました。
「アジサイがさきました。そのとなりで、カエルがおどっています」
「秋になると、葉っぱが赤くなったり黄色くなったり、まるで、まほうをかけたようです」
星たちは、花やカエルや葉っぱを見たことがありませんが、おばあさんの話を聞いて、そのすがたを想像しました。そのうちに、いつのまにか、けんかをやめました。
次の日のことです。おばあさんは、きのう、いつもより大きな声で、たくさん話をしたせいか、とてもつかれていました。夕方になって、
「今夜は、何を話そうかねえ」
考えていたら、コックンコックンねてしまいました。もう、一番星が出たというのに、ちっとも起きません。
とうとう、夜の十時になってしまいました。
「何があったんだ」
「さっきまで、星が光っていたのに、空が、真っ暗だ」
「雨もふっていないのに、星が出ないなんて」
町では、空を見ていた人が、さわぎ出しました。
「よし、見にいこう」
ふだんは、だれも来ない山に、たくさんの人が、登ってきました。
「いったい、どうなっているんだ」
「空から、星が消えてしまうのか?」
みんなの声が、山の中にひびきわたります。
おばあさんは、たくさんの人の声を聞いて、ようやく目をさましました。
「しまった、ねぼうした」
あわてて、外へ飛びだしました。
見あげると、空は、真っ暗でした。それもそのはず、どの星も、みんな、すやすやとねむっています。
おばあさんは、さっそく、空に向かって、話を始めました。さわいでいた人たちも、おばあさんの話を聞いています。
「むかし、むかし、星のおばあさんとおじいさんがいました。ある日、人間が道にまよったのを見て、おばあさんがおじいさんをくすぐりました。おじいさんは、大きな声でわらい出しました。それで、おじいさんの星はキラキラかがやき、道が、ピカピカにてらされて、人間は、ぶじに帰ることができました」
おばあさんの話を聞いて、星たちは、つぎつぎに目をさましました。真っ暗だった空が、星でいっぱいになりました。
「今日の話は、昼間の話じゃないんだね」
「ぼくたち星の話だね」
「たまにはいいね」
「おもしろい」
星たちは、そんなことをいいながら、ニコニコして、話を聞いていました。
どの星も、キラキラ光っています。
ところが、山に登ってきた人たちは、
「なんだか、ねむくなってきた」
「早く帰って、ねよう」
「帰ろう、帰ろう」
つぎつぎに、山を下りていきました。どうやら、人間は、おばあさんの話を聞くと、ねむくなるようです。
今夜も、空には、たくさんの星が出ています。小さな星も大きな星も、空一面にあって、数えきれません。
「あっ、キラキラした」
そんな時は、きっと、おばあさんが、山のてっぺんで、あのゆりいすにすわって、おもしろい話をしているのでしょうね。