しばらくして少し揺れがおさまってきたので、事務所に戻った。マネージャーがテレビをつけて、どうやら震源は東北らしいと言う。しずかと一緒に隣で働いている女性は確か東北出身だったので心配そうだった。

しずかの携帯に中学生の娘からメールが届いていた。

「どうしよう、こんなことになってる」と写真が添付されていた。食器棚からすべての食器が飛び出して床のうえで粉々になっている写真だった。すぐに電話をかけたが通じない。

大丈夫だろうか。息子は家にいるのか? すぐに帰りたかった。夫にも電話をしたがまったく通じない。メールも使えなかった。

社内の電話やファックスも止まっていて使えなかった。ホテルの専用端末が切れたのでチェックイン、チェックアウトができないという。エレベーターも止まっているので、お客さんが降りてこられない。男性社員は全員階段で各部屋を回ることになった。

外が騒がしくなっていると思って窓の外を見ると、煙が出ていた。海のほうから煙が流れてきていたので、東京湾で船が燃えているのか? と見に行く人がいる。その人が走って戻ってきて、近くのテレコムセンターが燃えているという。

お客様を全員避難させなくては、と慌ただしくなった。館内放送で、お客様に外に出てくださいと案内し、身体の不自由な方を助けに行く。もう誰が何をやったらよいのかわけがわからなくなり、全員がおろおろしていた。しずかもお客様を外に誘導するべくロビーに飛び出した。

外は真っ黒な煙で空が覆われて暗くなってきた。煙の臭いもしてきて、恐怖で足がすくむ。まさにテレビの救命救急のドラマを体験しているようだった。しばらくして、火事も鎮火したようで空気が澄んできたので館内に戻る。

フロントスタッフの女の子たちがお年寄りや女性のお客様に毛布を配っていたので手伝うことにした。「大丈夫ですか? 毛布をお使いください」などと声をかけながら人々の間を回る。どの人がホテルのお客様かわからなかったが、じっとしてはいられない。

そのうちにテレビに津波の映像が流れた。巨大な津波が防波堤を越えてどんどんと街中に流れ込んでいる。車が流され家が流され、人々は呆然としていた。目を疑う光景だった。

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本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。 

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