「圭、今日はありがとう。もう帰らなくちゃ。タクシーを一台呼んでもらえますか?」
玲子はそのタクシーに乗り、寂しそうに帰っていった。
それから数日経ち、圭が会社で仕事をしていると、加藤から電話がある。
「圭、今週の金曜日、例の大学病院に導入する新システムの契約を取るため、高木教授を東京の料亭に招いて接待することになった。そこには圭も一緒に来てもらいたいんだ。どうにか都合をつけてくれないか?」
圭が返事をする。
「おまえもよく知っているように、俺はそういった接待のようなところには行かない主義だ。第一、俺はグローバルプロジェクトでとても忙しいのさ。この前、おまえの顔を立てて講演をやっただろう。それで十分じゃないか」
加藤が食い下がる。
「俺もおまえの接待嫌いは知っている。だけど医学界の重鎮の高木教授から、講演で世話になったおまえを、是非一緒に連れてきて欲しいと頼まれているのさ。もうすぐ大学病院との契約も取れそうで、あと一押しのところまできているんだ。圭、俺とおまえの仲じゃないか。ここはなんとか都合をつけてくれないか。頼むよ」
圭が渋々受け入れる。
「加藤、同期のおまえからの話だからな。接待は今回の一回限りで最後だぞ」
その返事を聞いて、加藤は喜んで電話を切っていた。