手話奉仕員養成講座の「手話奉仕員」とは、手話学習の経験がない人を対象として行われる手話奉仕員養成講座計80時間を修了した人のことで、地域の聴覚障害者と手話でコミュニケーションできるレベルとされている。一方、手話通訳者は手話奉仕員とは区分され、手話通訳者養成講座計90時間を修了し、都道府県、またはその委託を受けた団体が実施する認定試験に合格し、手話通訳者として登録した人のことをいう。
現在は、全国手話研修センターが実施する手話通訳者全国統一試験を採用する地域が増えているが、独自の試験を実施している地域もある。しかし、手話通訳者の養成・派遣事業が始まった後も、手話奉仕員から手話通訳者への移行にかかわる研修が実施されない、また予算が十分に確保できないために手話通訳者養成事業が実施できないなどの理由から、手話奉仕員が通訳活動を担わなければならない地域もある。
2006(平成18)年10月から手話通訳者派遣事業はコミュニケーション支援事業として市町村の必須の事業となったが、実施されていない市町村や、実施されていても派遣要綱の整備がまだ行われていない市町村もある。
国の要綱では、「手話通訳者」は①手話通訳士、②手話通訳者、③手話奉仕員となっている。派遣要綱における登録手話通訳者の規定は地域によって異なっており、派遣対象・範囲・内容などについても市町村の裁量によるため地域間における格差が生じている。
手話通訳者派遣の利用料については、多くの地域では全額を公費負担としており、聴覚障害者への利用料負担はない。しかし、聴覚障害者に費用の一部を求める地域もあり、利用料無料に対する取り組みが続けられている。
聴覚障害者の社会参加の拡大、社会保障制度や経済状況の変化など社会状況の変化に伴い、手話通訳による情報保障のニーズは年々急速に増加し、内容は多岐にわたり専門的になってきていると考えられる。コミュニケーション支援事業の実施によって手話通訳派遣事業の体制が進んでいる一方で、手話通訳設置事業が進んでいないこともあり、多様な手話通訳の依頼は登録手話通訳者によって支えられているのが現状である。
登録手話通訳者は、聴覚障害者福祉において重要な役割を担っているにもかかわらず、登録活動における報酬は市町村ごとにばらつきがあり、社会保険の加入や福利厚生はなく、通訳依頼は不定期で安定した収入の見通しを持つことができないことなどから、登録活動のみで生計を営むことは大変困難で厳しい状況に置かれている。
注1:引用文献 山形惠治(2008)「登録手話通訳者の現状と課題―実態調査報告書から見えてきたもの―」『手話通訳問題研究』No,105,38-47.
【前回の記事を読む】ハローワークに手話協力員が設置されているものの、2006年から設置時間数が減らされ、報酬も減額されてしまい…
次回更新は6月26日(水)、10時の予定です。