ハッサムは部屋へ戻りながらヨシムにサドルを引き取るための民間救急車の手配をするように指示し、併せてロンドン在我が国大使館へ電話し今回の事情を話して、カラム副大臣より国として恥ずかしくない対応をするように指示を受けているので如何にすべきかを聞け!と言った。

又今回の訪問用のお土産が沢山残っている事も伝えるようにと話した。ヨシムとマサイは頷くとボディガード控室へ急いだ。

ハッサムは部屋へ戻りサドルを思いながら王子様は確かサドルと親しかったな……と思っていた。此れからお話しする辛い話をどういう風にお伝えしようか?と考えた。

そしてサドルの優しい顔が浮かび、王子様が幼い頃、砂漠ネコを一人で探しに出て戻りが遅く大騒ぎした時、サドルが自分の責任です、と言って三日間謹慎を受けた。

それ以来、王子様はサドル! サドル!と慕われ、詰め所に来てアラブ将棋をサドルと何度もされていた。大きくなられて、弓の名手サドルから手ほどきを受けられ、今やすっかりお上手になられた……と思い出していた。

カラム副大臣は、王子様へ何と言って伝えるか考えていたがやはりそのまま伝えるしかないなと考えハッサムへ、此れから王子様の処へ伺うからヨシムもマサイも連れて一緒するように伝えた。

少しして王子様の部屋の前へ行くと既に三人が扉の前で待っていた。カラムは先にお付きの女性へ伺いたい旨伝えていたので扉をノックした。直ぐにお付きの女性が扉を開け、少し頭を下げてカラムと三人が入室した。

頭を上げると王女様も一緒に座っておられ、王子様が手で座るように示すとカラムは前の椅子を引いて横にずらし座った、三人は立っていたが王子の合図で直ぐ女性が長椅子をカラムの脇に置いたのでハッサムが「失礼致します」と言って頭を下げ背筋を伸ばし直立して座った。