お嬢様の崩壊

翌朝、混んだ地下鉄に乗ってつり革につかまり窓を見ると、疲れ果てた中年女が映っていた。誰だろう? 自分ではないか。目の下のクマが影を作って醜かった。

もうすぐ新宿に着くころ、足元がすうっと抜けるような感覚に襲われ、頭の中が真っ白になった。

(あ、倒れる)と直感で思ってその場にしゃがんだ。お腹も痛いし、目が回ってぐるぐるしていた。次の駅であわてて降りると駅のトイレにとびこんで座り込むと立てなくなった。しばらくしておさまってきたので、あわてて職場に向かった。

何とか就業時間に間に合ったがロッカーの小さい鏡に映った自分の顔は真っ白だった。

次の休みの日に病院へ行って血液検査をすると、極度の貧血だった。医師からは、「ほんとうなら入院するレベルだけれど病室が空いていないので鉄剤の薬をしばらく飲んでください」と言われた。

病院から急いで帰ると夫が「お昼は何?」と聞く。寝たかったけれど、急いで焼きそばを作って食べさせる。夫は黙って食べるとすぐに寝室に入って寝てしまった。病院はどうだった? とか具合はどうかとか何も聞いてくれなかった。

心の中で(どうしてこんなに思いやりがないのかしら)と思ったが、今の夫には人の気持ちを考えるような余裕がないのだろう。

仕方なく、夕食の買い物に出たが、スーパーを何周回っても食べたいものが思い浮かばず買うものがなかった。そのうち目が回ってきた。目の前にあった合いびき肉ともやしを買って帰ると座り込んだ。