疲れた。とっても疲れていた。

次の週、派遣会社の担当者に電話をして、体調が悪いので辞めたいと伝えた。すると「派遣先の会社からもあなたの契約を更新しないと言われているのでちょうどよかったです」って、なんてこと! 

ミスやクレームが多いと派遣会社に伝わっていたのだった。一生懸命真面目に働いているのに、ついていない。体調も悪いし気分も悪いし、またまたどん底に落ちた。

職場の同僚たちは、派遣のおばさんが一人辞めるからといって誰も悲しんだりはしない。一人ぐらいいなくたって仕事は回るのである。

勤務が最後の日。社員の人が辞めるときみたいに花束をもらうようなこともない。派遣は退社時間が早いので、みんなが忙しそうにバタバタ働いている最中にこっそり荷物を持って 小さい声で お先に失礼します……と声をかけて外へ出た。(あ~、また仕事探さなくちゃ)と思いながら、取り敢えずほっとした。

デパートの地下で横浜の病院で副院長をしていた父親が好きなパン屋さん「パパドール」のフランスパンを買った。小さな贅沢である。

父はいつも美味しいものを見つけて買ってきてくれる人だった。当時パパドールは横浜にしかお店がなかったので、父はわざわざここのパンを買うために横浜まで行って買ってきてくれていた。

父のお気に入りはチーズがごろごろ入ったフランスパンだった。そのパンを口にすると懐かしい思い出がよみがえる。