あの曲を歌っておられた、坂〇泉水のような美しさ。透き通った黒髪を風になびかせながらの微笑みが忘れられぬような、誰もかれも恋愛の対象にしてしまうような、そんな煌めきを兼ね備えている女性。タイプじゃの。相手が我輩では無理じゃな、これが。

お昼休憩の終了間近に、息抜きのため、安住とビルの前でお喋りじゃ。

「大人さんはこの仕事に慣れてきたみたいだね」

「オオウッ。オウオウッ。オオウッ。オウオウッ。手慣れたもんじゃろ」

「いつだったか、大人さんに無礼な発言をして、ごめんね。足が不自由だとか、お尻がてかってるとか」

「我輩はの、基本的に、人を恨んだりはせぇへんのじゃ。人を大切に扱い、権利や存在を認めて、それが、どれだけ有効になっていくのかを、愛情を持ってオブラートに包んであげれば、その人のためになるのじゃからな。これが人間関係じゃ」

「訊いていいかな?」

「何をじゃ?」

「大人さん、奥さんいないの?」

「いや、これでもの、若いときはモテたのじゃがな。我輩は少々、理想が高すぎるところがあってな。あの女性を知っとるけぇ? 坂〇泉水。日本人女性で最も美しかったおなごじゃ。タイプの問題かもせんがな」

「知ってるさ~~。世代が遠いけど、あぁいうタイプいいよね」

「お主もわかるのかの。話が合うのう。……ん?」