殿と私、突然現れたタマに同時に声を上げたのですが、タマはいつもふてぶてしい態度なのに、爽涼な風を纏いながら、流れるように話し出すのです。
「御前、失礼致します。殿におかれましては、こちらの世界に参らせたまいて、まだ僅かでございますが、随分とお慣れになられておられますご様子、いかがでございますか」とタマは畏まって話す。
「時代が違う、そう構えなくてもよい、気楽に話すがよい。……確かに、ふむぅ、慣れはした、少しであるが。しかし、このような緑多いところにおると昔を思い出す。……洋子、我は先祖にて天皇家と繋がる者であると知っておるか」と殿が聞いてくるので、前にタマが話していたのを思い出し、
「存じ上げております。確か、ご先祖様のお名前は高望王とお呼びしていたと、タマから聞いています」と私は答える。
「存じておったか。……この世界には、まだ天皇はおられるか」と不安そうに聞いてくる殿。
殿を元気付けるように、私は明るい大きな声で話して差し上げる。
「いらっしゃいます。でも平安京のあった所ではなくて都から東方位に当たる、今は東京という地名の所に、御所を構えられてそちらでお住まいです。……勿論、平安京、今で言う所の京都御所も現存しております。しかしこちらは、使用されることなく重要建造物として保護保存されております」
簡単ではありますが説明してあげると、殿は深く考えながら、トツトツと話し出す。
「……私は出来るならば一度……、話に聞いていた、平安京をご遠望申し上げたいものだ」
その時、すかさずタマが余計な事を言い出す。
「殿、丁度よろしゅう御座いました。今夏末、洋子が友人達と平安京へ旅をすると申しておりました。ご一緒されてはいかがでありますか」
「洋子、それは誠か」
喜色満面の殿が聞いてくる。