第二章 招魂と入れ替わり

「お金とは」と殿。

「通貨の事です」と私。

「殿の時代は、何か欲しい物がある時は物々交換でしたか?」

「いや、米、絹などで支払う他に、永楽通宝もあった」という殿の話を受けて、私は詳しく説明する。

「今は欲しい物は、日本銀行券と貨幣と言う物を使って手に入れます。日本銀行券と貨幣は幾つかあり、私が今持っているのはその中の一部で、家に帰れば壱万円も五千円もあるけど、今は千円と五百円、百円、五十円、十円と言う貨幣です。……それでこの自販機にお金と言う貨幣を入れて、お水を手に入れようとしたところです」

「水にも金を払うのか、それに、ざっと見ると、何やら色の付いた物も沢山あるのぉ~」

そんなことを言ってくる殿に、また私は説明する。

「水は水でもただの水ではなくて、体に良いマグネシウムなどのミネラルを含んでいるの。そして他の色の付いた物は、コーヒー、まだ殿の時代には無くて、その後外国から来ました。それから他の色の付いた物は果物の果汁を水で薄めた物なのです」

「ミネラルとは何か」と殿。

「ミネラル……うぅーん、六百年余り前の人に、なんて説明していいかわからない。……明日大きな図書館に行くのでご自身でお調べください」私は説明しづらくてそう言い切る。

それにしても、自販機の事は聞いて来ないのね……こう言う販売形態と受け入れているのかなぁ。

 

お昼の時言っておいたのに、何のことはない、午後も図書館で過ごし、夕方帰るとき、ゲーセンに連れて行こうとしたら、疲れたし図書館で借りた物で調べたいと言うので、明日大きな図書館に行くということで、今日は家に帰ることになりました。

バスを降り、二人並んで歩いていると、冷房の冷たさとは違い、宵がせまりつつある中吹いてくる、優しい風が心を薄く包んでいく。

殿を送って行ってから思うのです、あの時代の十五歳は真面目すぎると。遊びが無い、とにかく一心に調べる調べる。明日もそんな感じなのか? ……

次の日、JRで名古屋に向かう……のですが、電車に驚き、乗り換えた地下鉄には驚きを通り越して目を見張る殿に、倒れるんじゃないかと思ってしまい、思わず持っていた水を飲ませてた。

地下鉄構内を出て、図書館へ向かう間中、殿は言葉が出てこないのかズーッと無言なのです。きっと、驚き疲れているんでしょう。

とにもかくにも、ここまで来たんだから、存分にお調べください、と私は思うのでした。

「それでは洋子……」と殿。

「はい。私はこの辺りの雑誌コーナーにおりますから、どうぞ、お好きな本をお好きなだけご覧ください。またお昼になりましたら、お声掛けします」