広い館内、夏休みなので割と人は入っている。でも相変わらず、多く人が居るのに静まりかえっている。書棚から本を出す音、厚い本のページをめくる音、そして行き交う靴音。
そんな音しか聞こえてこない。
お昼は殿の気持ちを安らがせるために、コンビニで買ったおにぎりを公園で食べることにした。ベンチに落ち着くと、
「木々や草花は、昔も今もあまり変わらないのだなぁ~」と一言、殿は言う。
何だか、とっても深いなぁ~と思う私は、
「ですよねー、殿は随分昔の事を調べられていたようですが、ご理解されました?……午後も図書館に行かれますよね」
「退屈しているのなら悪いが、もう少し見てみたいものが多くあるのだ。洋子には申し訳ないが」と殿は言う。
「いえいえ、どうぞどうぞ。私も丁度調べたいものがありました」
「そうか。では、にぎりも食したゆえ、すぐに戻ろうか」
はつらつとした殿は元気に図書館に戻ろうとしている、知識を得ることはそんなに楽しいのか? いつになったら、遊ぶんだ。折角、名古屋まで出て来たというのに!
結局、閉館時間まで読みふけっていたようです。
少し寝ていた私は、学校にいる時より静かな時間を過ごしました。
……長い一日だったなぁ~
「洋子。昨日今日と身共ばかり好きにして、すまなかった。明日は蔵人、あっ、タマであったな、少し会ってなかったゆえ、八幡社辺りを見て回りたいと思うが、どうじゃ」と殿は聞いてくる。
「はいはい、そういたしましょ。殿もお疲れでしょうから明日はゆっくりしましょう。それにつけても、この時間。少しお腹空きません、ドーナッツでも、あっ、知らないか、お菓子でも買って食べながら帰りましょう」
「そうだな、少し減ったな。家で致嗣の父上が待っておられるが……洋子の申すとおり食して参ろう」と殿が使う言葉を聞くにつけ、
「殿、あのーもう少し気楽に話せません?」
「どこかおかしいか、かなり崩して話しているつもりなんだが……」と考え込む殿。
「ああーいえ、どうぞそのままで……気になさらずに、すみません」
【前回の記事を読む】「今は馬には誰も乗らなくなったのか」と動揺を隠しきれない様子で聞いてきた殿