第二章 招魂と入れ替わり
それにしても……帰りに食べたドーナッツが甘過ぎると……体に悪いのではないかと聞かれてしまった。
殿の時代、甘い物があまり無かったようだ。果物はあっただろうが野生種だったと思うし、私達が食べている糖度が増した栽培種とは違う。だから、甘みに対しての反応が、体に悪い、つまり毒ではないか、ということになるのね。
新しく知った殿の気持ちというか受け取り方、色々あるのねぇ~。そう思いながら、明日八幡社でまた会いましょうと言いながら、送って行った。
翌日、殿と会って話すと、朝の兄の意味深な言葉の訳がわかった。
「朝は気持ちがいいな、のう洋子。そういえば、昨晩、携帯電話なる物が鳴って、丁度居合わせた蔵人に教えてもらいながら、洋子の兄上と話をしたぞ。……不思議な物だな」
殿は唐突にそんな事を言ってくる。思わず私は叫んでいる。
「何を話したの! ああーいえ、話されたのですか」
「これと言って、大した事ではないぞ。釣りに誘われたので明日は洋子と出掛けるので、明後日ならばと承諾した」
それだ! それだよー。
兄曰く、「この頃、致嗣と仲がいいらしいなぁ~」あの言葉だ!
殿は……はあ~余計な事を……ホントつかれるなぁ。
「何を考えておる、杜は年月が経ってもあまり変わらないなぁ、落ち着く」
目を閉じながら緑の香りを、堪能しているように殿は言う。
「ところで殿、タマはよく家に来るんですか」と私は杜の緑に浸っている殿に聞いてみる。
「そうでもない、だから、じっくり会いたいなと思って今日ここに来たのだ。昨晩もあれからすぐにいなくなって」
「でしょうねぇ、大体野菜食べてゴロゴロ寝てばかりいる猫だから、ぐーたらなのよ」
「俺の事言ってんのか」
「蔵人!」
「タマ!」