第一章 「刑務所が足りない!」

「いや、……私は一介の刑務所長ですから人権問題には精通しておりません。しかし、仮に私が収容者の名前について下手なコメントをしたなら人権問題として弁護士から追及される事はあるかと思います。私として言えるのはこれが精一杯です」

と大人の対応を見せた。この苦しい須崎の対応を見ていた団が

「……確かに君の言う通り名前に関しては君にはどうする事もできない問題だ、私が悪かった。謝る。済まなかった」

と言って深々と頭を下げ素直に謝罪した。この団の真摯な態度に

「……検事さんにそんな風に素直に謝られたら許さない訳にいかないじゃない。分かってくれたなら今後は名前の件は禁句という事で宜しく!」

と桜田も謝罪を素直に受け入れたその上で

「正直言って、親を恨んだわ。よりによって警子のけいの字を警察の警にするなんて、親としてどうかしているんじゃないかと思ったけど、結果として警察官という職業に就いたら運命だったのかもと思った」

と名前について語ってみせた。それに対して団が

「そうだよな、普通の親なら警子とは付けないよな」と独り言の様に呟いた。その時だった。

「あっ、だめだ!」所長の須崎が叫ぶ様に声を上げた。桜田が

「どうしたのですか、急に?」と問うと

「さっきのここを売って離島へ移るという案ですが、致命的な問題があります。ただでさえ刑務官の成り手がいないのに、離島なんかに移転してしまったなら離職者や求人難でたちどころに立ち行かなくなってしまいます。

特に女性刑務官は離職者が多く、求人もとても難しくなってきています。そんな訳で無理です!」と言い出した。