最後の通信票のエールを胸に

年が明けるとすぐ春がやって来ます。いよいよ中学校も卒業です。卒業式の様子はあまり記憶がありません。しかし最後に生涯忘れられない物を頂きました。それは今でも卒業証書と一緒に、大切に保管している中学校最後の通信票です。

私の通信票には、担任の先生の特別な想いが込められていたのです。

通信票には各教科の評定欄の他に、文章で知らせる通信欄があります。通常その欄には学習や日常生活の様子など、保護者に伝えたい情報が記されているのです。

ところが私の通信欄には、細かい字でびっしりと欄外にまで、私個人へのメッセージが書いてありました。

(メッセージ入り通信票) 何回も読み、その度にこぼした涙に励まされたこのメッセージは、私のこの後を生きる力の糧でした

「『雨にも負けず………』の詩のように苦しみ悲しみに打勝って明るい生活の営める強い人、美しい友の情を受け、又友に情を与えられるそんな人になって下さい。過ぎ去った中学時代の思い出は、大切に自分の胸にしまっておき、明日への希望を持ち続けましょう」

と書いてありました。

私は中学校の三年間、一日一日を夢中で過ごしてきました。周りの様子はあまり記憶にありませんが、先生はいつも皆に穏やかに接していたのを覚えています。そして、私にだけ特別な声掛けをしたり、心配して家の様子を聞いたりする事はありませんでした。

けれども、この最後に贈って頂いた言葉を読んで、先生がどれ程私のことを心配し、見守ってくれていたのかを知りました。また先生が私に普通に接して下さったことで、私が皆と同じように、学校生活を送ることができたことに気づいたのです。

先生のこの最後のメッセージは、私への大きなエールとなりました。私はこのエールをしっかり受け止め、自分の誇りとしてその後の心の支えにしてきました。

今こうして当時の生活を思い出し、このセピア色どころか茶色に変色した通信票を見ていると、思わず涙がこぼれてくるのです。あれから六十年余歩んできた、私の人生の郷愁の涙なのかも知れません。