光秀

「ははっ。ありがたき幸せに存じ奉ります」

⇒ありがたい、上様はよく見ておられる。今堅田城への攻撃は将軍義昭様に対し、「無駄な抵抗をするな」という脅しであり、最後警告でもある。これを義昭様が分かってくれなければ、今度こそ将軍家といへども容赦はしないことになる。

信長

「ところで信玄坊主は、お主の見立て通り労咳がかなりひどく、以前から患っていた様子じゃ。三方ヶ原の戦以降、武田軍の進撃が突然止まったのは、信玄坊主の身に何か重大なことがあったとしか思えんが、我らを油断させる作戦とも考えられなくはない。難しいところじゃ……」

光秀

「はっ、某もそのように思いまする。あの武田軍団が三方ヶ原の勝ち戦以後、ピタリと動きを止めているのは、信玄殿に余程重大なことが生じていると思わざるを得ません。物見の話では騎乗して軍隊を謁見している姿もあるとかで、これが影武者かどうかは定かでないとのことでございます」

信長

「分からないのは、そのように重病の信玄が、何故病を押してまで全軍を上げて進撃してきたのかだ。それも徳川の城を迂回してまで急ごうとしたのは何故かだ」

光秀

「はっ。確かに……」

⇒もしかしたら信玄殿の狙いは上洛でなく、ただ一人信長様を誅することだけだったのではなかろうか……。もちろん義昭様の御教書はあっただろうが、それ以上に、自分の死期を感じた信玄殿は、自分の跡を継ぐ勝頼が「将来上様に滅ぼされるのでは」という恐れを覚え、重病を押してまで兵を進めた。これならば何故徳川の城を迂回してでも上洛を急いだかの説明がつく。しかしこんな憶測は信長様には言えない……。

3.上京燃える

四月四日<本能寺:信長宿舎>

光秀

「上様、細川藤孝殿と荒木村重殿が将軍家を辞して、上様にお仕えしたいと参られました」

信長

「うむ、二人共よう来た。藤孝、将軍義昭様の様子はどうだ」

藤孝

「はっ、全く先が読めず、自分が立たなければ信玄も動けまいと盲目的な暴挙で、某も荒木殿も手に負えませんでした。今、義昭様が信玄の次に働きかけているのが本願寺顕如であり、この者が動くと少々厄介になるかと見ております」

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5月22日 15:19