同じベッドに入った以上、なんとか彼を肯定しようとしていたが限界かもしれない。口を離した。だが、潤んだ目でこちらを見上げる姿に意表を突かれた。
もしかして、と勘が働く。彼はM男くんなのではないだろうか。拘束されずとも自分でベッドに横たわり、されるがままになっている。タツマさんよりずっと大人しく見えた。
これはまたとないチャンスだった。あたかも最初からそうするつもりだったかのように、アルミの名刺ケースからゴムを取って封を切る。先端が輪にきれいに収まり、スムーズに巻き下ろせた。内心の達成感を気取られないよう、彼に跨る。
目を閉じて腰を沈めながら、凄腕の彼女と自分を重ねようとした。だが、いざ上になると、いつもと違う景色に戸惑った。見も知らない男性が大の字になって身を任せている。促すように硬い腿で尻を押されたが、どう動けばいいのかわからなかった。
今までの夜を想起しながら身体を揺すると、彼が声を上げる。ひとまず痛みや不快さにはなっていないようだが、この状態でゴールまでたどり着ける気がしないのは、私だけだろうか。
自由とはある種の不自由だった。一から十まですべて自分でしなくてはいけない上に、成功するとはかぎらない。
今まで見たアダルト動画の女優たちの動きを再現しようと試みるが、集中力が切れて止まる。M男くんなら簡単だ、なんて言った誰かさんが心底恨めしかった。
なんとか最後まで持っていき、ようやく終えた。
だが汗ばかりかいて達成感もなく、あるのは疲労と困惑ばかりだった。男性はいつもこんな思いをしているのだろうか。
「このまま今日は泊まろうよ」
しばらく枕に顔を伏せていた。泊まろう、とまた言われたが、顔を上げる気になれない。大きなベッドは汗やその他の体液で濡れ、隣には昆虫顔の男がいる。
照明を鈍く反射する床や、巨大すぎるテレビさえも憂鬱に感じた。この部屋では不特定多数の男女が、洗面台やテーブルに尻をつき、カーテンを開けて交わってきたのだろう。かつてこの部屋にいた人間たちの鼓動に気圧された。
【前回の記事を読む】待ちあわせ場所に現れたのは送られてきた写真とは違う容姿の男性で……