「ケチつけてきたらさ、あんまり気にし過ぎないで、何言われてもシラーッとしてたらいいわよ、シラーッ、と」

「そうするつもりだけど……」

「でも結婚て、面白いわよね。赤の他人が毎月自分の給料をあたしに運んでくるんだから」

和代はバツイチで、去年再婚している。子供はいない。

「だって全くの赤の他人がよ、汗水たらして稼いだ給料、毎月そっくりあたしにくれちゃうんだから。これって、考えてみたら、ほんと面白いことよね」

T駅で降りて国道沿いの上り坂を数分歩く。大きな信号を渡り、ガード下をくぐると下り坂になって、まもなく校舎が見えてくる。たったこれだけの道のりだが、純粋そのものだった若き日の思い出が胸にあふれてきてあさみは酔いしれたようになった。

正門を入る和代の後ろに続きながら、あさみは校舎を見上げた。各教室を結ぶベランダのしゃれたオレンジ色の手すりが気に入って、この女子高を受験することに決めたものだ。

合格発表の日のことが思い出される。自分の番号を見つけたときの心の舞い上がりよう。人生がまぶしいくらいに輝いて見えた帰り道。その春大ヒットしていた「ブルー・ライト・ヨコハマ」を口ずさみながら、あさみは希望と喜びに燃えて入学した。

理緒子のほうはがっかりしたむくれっ面でやってきた。第一、第二とも志望校に落ちて、ここが最後の滑り止めだったらしい。有名校でない、しかも男子のいない女子校ということで、彼女は登校を拒否し、入学式に来なかった。

困った父親が文部省に問い合わせてランクを調べてもらい、『一流の下(げ)』という回答を得て、やっと娘を登校させることができた。

三年間あさみは理緒子と同級だった。理緒子を中心にでき上がった『六人グループ』に入っていた。理緒子は皆を引っ張っていくリーダー的なところと、一匹狼的なところ、つまり、皆をまとめる力と、それを破壊する気まぐれを併せ持っていた。

そのせいかどうか、よけい面白がられ、皆に注目されたのだが、とにかく気が強かった。後にも先にも見たことがない天下一品の気の強さだ、とあさみは思う。それを目の当たりにするたび、心の中でこうつぶやいたっけ。

〈世界は理緒子のものだ〉

 

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