はじめ、眼科に決まったとき、この病院の中でも、特に評判がよく忙しい科だということは聞いていた。しかしそれ以上に、同じ科の人たちがとてもいい人で、あずみにとっては居心地がよかった。

そこでよくしてもらったことで、あずみは将来、附属の病院に進もうと強く意識することになったのだ。そして、配属されるなら同じ眼科で働きたいと思うようになった。

もちろん就職できたからといって、みなが希望している科に配属になるとは限らない。経験や適性によって異動とかもあるだろうし、ずっと同じ部署で同じメンバーとともに仕事ができる保証はないのだ。

しかし看護師の異動はあっても、きっと医師の異動はそれほどないのではないだろうか。しかもそこの病院で評判の医師ともなれば、病院側がその医師を手放すことはないだろう。

眼科にも評判の医師がいた。桂杏子(かつらきょうこ)先生。遠方からわざわざその評判を聞きつけて診察を受けに来る人がいるくらい有名だ。いつも眼科はそのために患者であふれている。

桂先生のもとで働いて、あずみはその評判が決して腕だけではないことを知った。腕がよくても、つきあいがしにくい医師だと患者は逃げてしまう。結果、それほど難しくない症状であれば、その程度の腕の医師は捜せばほかにもいるだろうから、患者は前評判ほどにはついてこない。

しかし、桂先生は違った。腕のよさに加えて患者を大切にする。

そして、なにより桂先生は看護師を信頼しており、一時期、眼科でスキャンダルに発展するような問題が起こったことがあったのだが、誰一人仲間を傷つけるような噂話をする者はいなかった。

そんな大変な状況の中でも、眼科のメンバー全員のチームワークは素晴らしかった。あずみは、その桂先生のもとで働きたいと考えている。

桂先生の人となりを見て、誰もが尊敬する人柄だと思うのはもちろんだが、医学的に見ても優秀な先生だから、その医学的知識に追いつけるような、そんな看護師でなければならないと思うのだ。だから、今は学生としての本分(学業)を全うしなければならないと感じている。

【前回の記事を読む】進級した初日くらい事件・事故などの話題とは関係なく普通の学生として過ごしたい!

 

【注目記事】あの日深夜に主人の部屋での出来事があってから気持ちが揺らぎ、つい聞き耳を…

【人気記事】ある日突然の呼び出し。一般社員には生涯縁のない本社人事部に足を踏み入れると…