「良ちゃんところの娘さんか……」
「はい。一か月前の火事で亡くなった、櫻井良一の娘です」
「そうだったか……」
男性は、生前の櫻井氏とわりと近しい間柄であるらしい。
「今回の火事は、放火という話でしたが……」
あずみが続けて質問する。
「らしいな。びっくりしたわ。実は火事に気付いて通報したのは、このわたしなんだよ」
「えっ、そうだったのですか」
火事を通報した住民に話が聞けるとは思わなかった。あずみも思わず身を乗り出した。
「じゃあ、昨夜は何時頃、火事に気付いて通報されたのですか?」
「あれは夜の十二時すぎだったと思うが……。昨夜はこの雪で寒くてなぁ。わたしはそのときトイレに起きていたんだが……」
男性は昨夜のことを思い出すように宙をみて言った。
「ふとトイレの窓から外を覗くと、炎が舞い上がっていてね。慌てて通報したんだ」
「それで、何か不審な点とかありませんでしたか?」
「不審な点?」
男性は怪訝な表情を見せた。
「その火事を発見された時に、不審者とか犯人らしき人物をみかけたとか?」
「ああ、そういうこと……」
意味が分かったという感じで、男性は答えた。
「不審者って言ってもなぁ。わたしが見た時には、すでに火が回っている状態だったから、犯人は逃げ出してしまっていたんじゃないかと思うが……」
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