「この団地もここ数年で随分人が少なくなったからねぇ。お嬢さんたちのような若い人を見かけることはめずらしいよ」
「わたしたち、今朝の火事を知って見に来たんです」
男性の眉の間に不快な表情が浮かんだ。
「まったくこんな住宅密集地で火事なんぞ、迷惑極まりない話だ。もらい火なんかしたらひとたまりもない」
「本当にそうですよねぇ」
「うちもすぐ近くだから、昨夜は気が気じゃなかったよ」
すぐ近くの住民なら、何か有力な情報を聞き出せるかもしれない。
「すぐ近くって、今回は一番手前の家が火事でしたよね?」
「ああ。うちは今回火事に遭った家の、三軒隣なんだよ」
三軒隣と言えば、櫻井家の隣の住宅が空き家で(四年前までは住民がいた)、そのまた隣の住宅ということか。この男性の家は、櫻井家とは二軒隣ということになる。
「もしかしてお宅のお隣は、四年くらい前までおばあちゃんが住んでいらっしゃいませんでしたか?」
今度は真琴が間に入って質問した。男性は驚いた様子で見返してきた。
「そうだよ。お嬢さんたちは、杉山(すぎやま)さんところのご親戚かね」
四年前まで住んでいたおばあちゃんは、杉山さんというらしい。
「いえ。うちはその隣の櫻井です。わたしは櫻井良一の娘です」
「えっ」
男性は、今度は息をのんで、傍にいる真琴の顔を凝視した。