ところが、小島が大学四年生の冬に事件が起きた。

就職も内定が出て後は卒業を待つばかりの頃、小島は最後の試験で「不可」を取り、単位不足で留年が決定してしまったのだ。

栞は短大を卒業し、既に二年近く社会に出て働いていたが、この春からは小島が就職することでお互いに社会人となる。燃えるような恋とはいえなかったかもしれないけれど、栞にとって小島は安心してありのままの自分をさらけ出すことができる相手だった。

だから一緒にいて気楽だし、このまま付き合いが続けば先々結婚することになったとしても、平凡な幸せくらいは掴めるのではないかという気持ちでいた。

それなのに突如として状況は変わり、さらにこれからもう一年間学生を続けなければならなくなったという小島に、栞は心底呆れた。

小島の要領の悪さ、肝心な所での運のなさにこれ以上付き合いきれないと思ってしまったのだ。栞が社会人となってからは、どこか小島に対して物足りなさを感じていたことと、二十二歳の栞にとっては、これからの一年間がとても長く感じられて、あっさりと別れを決めた。

「俺、こんなんでホント格好悪いよね、ごめん。今までだって栞ちゃんには本当は俺じゃない方がいいんじゃないかって思ってたよ、俺よりふさわしい人がきっといると思う」

あぁ、本当にそうかもしれない。

小島が言うようにまだ出会えていないだけで、もっとほかにいい人がいるだろうという気持ちが確かにあることに栞は気がついた。

「別にもう、この人じゃなくてもいいかな、って思ってさ。この四月で就職して三年目になるのに、いつまでも学生とだらだら付き合うメリットもないしね」

美香や小島とのことをよく知る友人には別れの原因をそんなふうに話したが、それは栞の本心だったけれど、小島との別れは思いのほか長く寂しさをもたらしていた。

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