阿波踊りと狸

翌日、夜、狸はやって来た。

「何か良い考えが浮かびましたか」と訊ねると狸は黙って首を振った。

「何も思いつきません」と言う。私の顔を見つめて「何か計画をお持ちなのですね」

察しの良い、頭の良い相手だ。

「私のプランはかくかくしかじか」と話すと、狸はぽんと膝を打ち、是非やって見ましょうと言う。

「問題は阿波踊りの開催まで1ヶ月しかない。準備ができるかどうかだ」

「問題ありません。インターネットを使えば世界の情報はすぐ集まります」

「狸がインターネットを使うのか。すごい世の中になったものだな」

「人間に化けて技術を身に付けたのです。狸の社会には技術者の養成所があります。人出不足の人間の社会に溶け込んで働いている狸は沢山います」と狸は胸を張って言う。

私は訊ねた。「この地域に狸は何匹いて、化けるのが上手いのは何匹くらいですか」

「そうですね、私の知る限りでは2百匹くらいですかね。狸の学校で化学(ばけがく)の成績優秀者は50匹くらいです」

「それだけいれば十分だ。皆の協力を得るように頑張ってくれ。私は明日東京へ帰る。これからの連絡はインターネットを使おう」

狸と私はメールアドレスを交換した。この親狸の人間の名は横山浩一という。メール交換は毎日続き、画像も送られてきた。狸はこちらの意向をよく理解していた。

いよいよ阿波踊りの開催日である2XXX年8月12日を迎えた。徳島市内は観光客 130万人が訪れ熱気でムンムンしていた。

阿波踊りは踊る一つのグループを連といいそれぞれに名前が付けられており、100人ほどの集団である。初めの連が踊りながら、桟敷席の前を通り過ぎていく。物珍しいので観光客は手を叩いて見物している。

はやし歌が聞こえる。

踊る阿呆に見る阿呆 同じ阿呆なら踊らにゃ損損新町橋まで行かんか来い来い

男の方にお負けになるな わたしゃ負けるの大嫌い

大谷通れば石ばかり 笹山通れば笹ばかり 猪豆喰うホーイホイホイ

ひょうたんばかりが浮きものか私の心も浮いてきた ホラ浮いた浮いた