第一部 銀の画鋲
「ワルツさんの秘密」
ドミニクからの手紙をカトリーヌに読んでもらっている間、ワルツさんは無言で闇の一点を見つめていた。読み終わったカトリーヌは手紙の余白をじっと見つめて動かなかった。
やがて「雪になりそうだ」とひとこと言いおいて、ワルツさんは深い緑の扉を押して出ていった。
ドミニクからのあとの二通の手紙は返事をくれないことに対しての失望に満ちていた。
雪は朝までやむことがなかった。
リュシアン、あの鳥はもう二度と戻ってくることはない
風は鳥の味方だけど、鳥は風を愛している
頭上から光は降り注ぎ
光はゆっくり風をまたぎ、鳥を祝福する
もう、二度と戻ってこられないから
あの鳥は美しいんだ
「胸騒ぎ」
クリスマスが過ぎた。
カトリーヌはホウキのような黒髪を緑のリボンで結わえていた。
翡翠色の目と秀でた額のせいでカトリーヌは年頃の文学少女のようだ。
象牙色に光った鼻梁はカトリーヌをより聡明に見せている。
僕はなんだか居心地が悪くて、ワルツさんの隣で狸寝入りをすることが多くなった。
ワルツさんはというと、僕とふたりでいた時と何にも変わらない。
いや、自分の「秘密」は秘密でなくなってかえってさっぱりしたのかもしれない。
笑うことが多くなったような気がする。
少しだけどね。