字を読めない人が本屋の主人だったなんて、素敵なことだと僕は思うけど、普通の人には理解できないだろうから、今まで通りに内緒にしておこうとカトリーヌが提案した。心ないことを言う人がいるから面倒だと、カトリーヌは付け加えた。
カトリーヌはしっかり者だ。
でも、あんまり、関係ないよ。
だって、お客なんて、ほどんど来ないんだから。
夜が降りてくる頃になると、毎日、雪が降った。
僕は星が恋しかった。
明け方、窓から見る白い雪と黒い森のコントラストは、モノクロームの楽園を思わせた。
ドミニクへの返事を代筆させてくれとカトリーヌはワルツさんにしきりに言うが、ワルツさんはふむっと唸り、だんまりを決め込む。
「何を書けばいいのか、何を知らせればいいのかワルツさんにはわからないんだよ。リュシアン」
カトリーヌは肩をすくめ僕に向かってしかめっ面をする。
ワルツさんの気持ちは僕にはよくわかる。
でも、六十年も前に姿を消した兄さんを探し続けたドミニクの気持ちは僕にはわからないよ。きっと、ワルツさんはなかったことにしたかったんだ。
ドミニクと別れた時に決めた。
もう、二度と会わない。
声も聞かない。
それが自分のなすべきことだと信じたんだ。
仕方ないよ、カトリーヌ。