その日、私は妹のみらいと小学校のグラウンドにいた。おそらくPTA主催の縁日のようなイベントに来ていたのだと思うが、仔細はとうに忘れてしまった。覚えているのは、目を離すとすぐにどこかへ飛んでいってしまう妹の背中をひたすら追いかけていたことだ。

「気付いたら頭の上から巨大な鍋が降ってきて、私はとっさにみらいを抱きしめた」

その結果妹は無事だったのだから、姉としての判断は間違っていなかったはずだ。ただ、私自身は結構な火傷を負うことになった。

「まさかここまで痕が残るとはね。直後の対応が悪かったのかな」

自分も周囲もパニックだったから、とにかく冷やすという応急処置の基本が守られなかったのかもしれない。おかげで私は、襟の詰まった、袖の長い服ばかり着ている。出没自在な悪魔が現れてからは自室で一人でいる時さえ肌を隠すことに気を使っていた。

「この傷―」

悪魔の手が今度は直に触れる。思いの外優しい感触に襲われ、身をすくませた。

「何?」

「わざわざ見せたってことは、僕に治してほしいの?」

「……できるの?」

「できないことはないけど」

傷痕を辿るようにして、彼の手が肩から背中を這う。反射的に飛び退くように立ち上がったが、男の顔に感情らしい感情はなかった。

「君との契約は済んでるのに、何で僕が治してやらないといけないの?」

「ですよね!」

勝手に裏切られた気分になって、すごすごとシャツを羽織った。いったい何を期待してるんだか。

「ただ、売ることならできるよ」

「え?」

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