人生の切り売り
二 再開
「この男が売っ払ったっていう元彼か」不躾(ぶしつけ)な呟きに、反射的に言葉を被せる。
「どうして戻ってきたの?」
「君に頼まれたのは『ちょっと出てって』とそれだけだから、いつこの部屋に現れようと僕の勝手だろう」
悪魔は掛橋くんから視線を逸らすことなく答えた。その声音はやっぱり面白がっている。
「そもそも君の言葉に従う義務も、僕にはないんだし」
「じゃあ最初からそう言ってよ」
きちんと対応を考えられていれば、私が掛橋くんを連れ出すという選択肢だってあったはずなのに。
容赦ない視線を浴びた掛橋くんが勢いよく席を立つ。
「ごめん、あすみちゃん」
「え?」
「俺のことなんか、そりゃもう過去だよな」
何も悪いことなどしていないのに謝る元彼を見て、こちらが焦った。
「違うの、掛橋くん」
「お邪魔しちゃってホント申し訳ない」
あれ、でも……このまま勘違いさせた方が彼のためにはいいのでは?
帰ると言い出した掛橋くんを大人しく見送ることにした。とはいえ、玄関先できっちり非礼は詫びておく。
「ごめんね。まさか急にあれが現れるとは思わなくて」
「いや、こちらこそ。びっくりしたけど元気そうで安心した」
本当にいい人である。むしろ私たち何で別れたのだろう?
「ネタにしたからには売れてくれよ。あの小説は俺のことだって、後々自慢するんだから」
「忘れる気ゼロじゃない」
「確かに」
それでも笑顔で別れることができたから、終わり良ければ全て良しと思うことにしよう。