母と暮らした最後の365日

僕と先生の受験戦争

話は戻る。

遠藤先生は僕の話を聞くと、開口一番、「いや大丈夫だ、まだ可能性は充分にある。作戦は先生が考えてあとで伝えよう。本気で頑張るなら、絶対受からせてやる。一緒に頑張ろう」と、想定外の答えが返ってきた。力強く伴走者の役を引き受けてくれたのだ。

そして間もなく、放課後に一人残されると作戦会議を開始。母の希望する学校は、ミッション系の大学付属の中学校だが、事前に遠藤先生はターゲットの学校の、過去問の傾向を調べてきてくれていた。「幸運なことに、基礎学力を試す問題が毎年必ず大きなウェイトを占めている。これは努力で解決できる。量をこなす時間との勝負だ」

そこで遠藤先生が考えたのは、学校に登校する前に早起きして、基礎問題を毎日集中的にやる。具体的には国語は漢字の読み書き、算数は計算力問題をひたすらこなす。試験の合否は1点の差に泣き笑いする状況だろうから、この基礎問題を取りこぼすことなく点数を稼ぐ、という作戦だ。

一方で、僕は母から依頼を受けた母の友人宅に居候を開始。遠藤先生から受けた作戦を実行すべく朝5時に起き、遠藤先生おすすめの勉強をやってから学校に行く。

ありがたいことに、母の友人も応援してくれ、5時起きに合わせて朝食を用意してくれた。僕の母が作ってくれた朝食は、パンと牛乳だったが、ご飯とみそ汁に変わった。母の友人が作ってくれた和食の朝食も母に劣らず美味しかった。

まだ外は暗闇の中で、熱々のみそ汁をすすると、瞼がふさがりそうなほどの眠気が覚めて、だるい気持ちが取り払われ、不思議とやる気が湧いてくる。この時からみそ汁は大好物になり、それは大人になった今でも変わらない。