五月になって、私もだいぶ高校生活に慣れてきた。クラスメイトたちとも、朝の挨拶を交わしたり、なにげない日常会話を楽しんだり、一緒にお弁当を食べたり。毎日が明るくとても充実していた。
美術部の部活も先輩たちが、優しくて気分的に安心して絵を描くことができた。
その月曜日の放課後も、美術部の部員たちは、美術教室に集まって部活をしていた。先輩は、二年生が四人と三年生が四人いた。美術室には大きな作業台が八台あって、部員たちは二人一組となって、一台ずつ作業台を使っていた。私と陽平はいつも二人で一緒の作業台を使っていた。
私は入部以来、美術室にあるデッサン用石膏像のデッサンを行っていた。陽平は家から百合の花の絵葉書を持ってきて、それをスケッチブックに水彩で描いていた。絵画の作業中は部員たちは黙って、自分たちの作品制作に取り組んだ。
部活は午後の三時半から始まり、五時まで行われる。そして五時から五時半までミーティングをして解散となる。ミーティングといっても、自由なおしゃべりタイムで、部員の親交を深めるための時間である。ミーティングタイムの時は、一台の作業台に、皆で椅子を持って来て、作業台を囲んで、話をする。
「ゆきちゃんと陽平どう? 部活には、もう慣れた?」部長である三年生の先輩が尋ねた。
「はい。すっかり慣れました。いつもリラックスして描くことができて、とても楽しいです」
「僕も、受験が終わって、久しぶりにスケッチブックに向かうことができて嬉しいです」
「二人とも絵を描くのが上手ね。大学は美術大学を目指しているとか」
「いいえ、特にそういうわけではなくて。でも絵を描くことは子どもの時から好きで」
「僕も、美大には行きません。絵で食べていけるとは、別に思っていません」
「そうよね。絵で生活するのは難しいことよね」別の先輩が言った。
「僕も絵は趣味だと思っている。だから大学は法学部を受験するつもりでいるよ」三年生の先輩が言った。
【前回の記事を読む】この絵画教室の雰囲気が、とても気に入って、その日のうちに入会を決めた