また、日本における道徳教育および宗教教育の推進には、日本神話の何らかの位置づけが必要である。

 

本書は、教育現場における道徳(倫理)教育・歴史教育・神話教育等への関連についても考察し、新たな地平を拓く試みでもある。

 

平成から令和の御代となり、皇室の意義や権威の由来が語られ、皇祖神が登場する日本神話にも注目が集まっている。

 

この時に当たり、「高天原」の訓注の解釈および訓読の転訛に関する研究成果を検証し、太陽神にして皇祖神・天照大神が主宰する「高天原」とは何か、と考察を加え、その世界を明らかにすることは、まさしく時宜を得たことと考え、本書を起草するものである。

 

なお、本書は、『大月短期大学紀要47 号』(2016年3月)所収の筆者の旧稿「日本神話における『高天原』の訓注の解釈および訓読の転訛に関する研究注2)」に加除修正を加え、あらためて発刊し、世に問うものである。

序章 教材の中の「高天原」

『古事記』は、平成24年(2012)の編纂千三百周年を機に、再び、広く人口に膾炙(かいしゃ)されることとなった。

 

日本最古の歴史書、もしくは最古の古典と評される『古事記』の、特に「神代」の部分の内容について、戦後長きにわたり、教育現場で取り上げられることは、無いに等しかった。戦前の国家神道に対する忌避や古事記編纂の政治的意図が強調されたからであろう。

 

筆者が大学1年生のとき、社会科教育の自主ゼミで、神話を歴史教材として取り扱うことの是非が議題となり、初めて「高天原」なる語に出会った。なぜなら、それまで日本神話の詳しい内容や用語解説を受けたことも学んだことも無かったからである。


注1)『古事記・祝詞』〈日本古典文学大系[〉所収の「古事記」(倉野憲司氏校注)岩波書店 昭和46年 p50

注2)[ 「日本神話における『高天原』の訓注の解釈および訓読の転訛に関する研究」(教育現場からの考察)松浦明博:大月短期大学60周年記念論文集 2016 /3

 

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