長瀬 律

そんな毎日が続く六年生の夏休み、芽衣おばさんが失踪する。おじさんの暴力に耐えきれなくなり、沙耶伽を残していなくなってしまったのだ。

おばさんがいないと店が回らない。おじさんは芽衣おばさんの行方を捜した。酔ったおじさんが、所在を尋ねに怒鳴りながら乗り込んで来たことがあった。知らないと答えるおふくろに激高し、手を上げようとした時おやじが間に入った。

「これ以上騒ぐなら警察に電話する。父親が警察に連れていかれる姿を、沙耶伽ちゃんに見せてもいいのか」

沙耶伽の名前を出され、おじさんの昂(たかぶ)った気持ちが鎮まるのがわかった。恫喝するおやじの言葉におじさんは踵を返して玄関から出ていった。

出てゆくおじさんの後ろ姿は随分小さくなっていた。不摂生な生活とお酒から、足を引きずって歩くことさえままならなくなり、手から杖を手放せなくなっていた。背筋を伸ばし、牛刀を握っていたかつての姿からは想像がつかない。おふくろは沙耶伽を気にかけていた。惣菜を作っては持っていき、学校での沙耶伽の様子を僕に尋ねた。しかし、その頃の僕らは思春期に差し掛かっていた。

中学に入ってからはクラスも違い、言葉を交わすことがほとんどなかった。サッカーに夢中になっていた僕は、登下校の時でさえ沙耶伽を見かけることがなくなっていた。

その頃からだったと思う。おじさんは生活保護を受け始めた。ただ、支給されているお金のほとんどが酒代に回っているのは、沙耶伽の服装を見ても容易に想像ができた。