二月初めの定期検査では、異常なしではあった。しかし彼の様子を見て気になっていた為、「ベバシズマブ治療以外何か治療法は無いのですか?」と担当医の先生に聞いた。すると「今とにかく画像上、落ち着いている状態なので、このまま今の治療をして様子を見ましょう」という事だった。でも気のせいだろうか、何かもうこの頃は、嫌な予感がしていた。

散歩に出かけても、なかなか帰って来ない。「家が分からなくなったのだろうか」と心配になった。何か無表情で、同じ所をぐるぐると回っている事もあった。

又散歩に出かけるのに、外の門塀を必ず開けて行くので、「どうして開けて行くの?」と聞いた事があった。すると「こうしておけば家にいるって分かるでしょう」と答えた。私は「そうかな?」と思いながら、以前の彼だったら出かける時は、必ず門塀を閉めて行ったのにと思った。何か行動も考え方もがおかしい。そう感じる事が多くなったのだ。

三月初めの定期検査でも異常なし。しかし定期検査の帰り、昼食を食べようとして、中華の店に入った時、私の食べている所に、自分の箸を入れて食べようとした事があった。以前の彼だったらこんな事はしないのに、「何か変だ」そう思ったのだ。この頃の彼は、自分のものと相手のものとの区別が、もう分からなくなっていたのだ。

店のご主人も、その様子を見て、不思議そうな顔をしていた事があった。「もう彼はおかしい」この時はさすがにそう感じた。「大学病院で様子を見るって言っているが、大丈夫なのだろうか」と。

【前回の記事を読む】消えた再発部分。安堵のはずが芽生え始めた「死」への意識が押し寄せてきて…

 

【イチオシ連載】【絵本】生まれたばかりの子犬に向けられた言葉「2匹か、少ないな」

【注目記事】妊娠を報告した後、逃げるように家を出てしまった彼。意を決して連絡してみると…

※本記事は、2023年1月刊行の書籍『あなたがいたから』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。