我輩が
「これには日本側、米国側共に承諾できる項目とできない項目が混在していますね。ご主人様には申し訳ないですが、やはりこれはちょっと無謀ではないでしょうか?」
と述べると、我輩のご主人は
「うーむ、ま、とにかく一度やってみよう」
と覚悟を決めた顔つきでそのまま日本側に送ることに決めた。
柴犬種族の我輩の犬識観から言えば、我輩のご主人が交渉の全権者たる立場を忘れてペテン師の動きに同調し、了解案を慎重に検討もせず、まるで自身が主導して作り上げた案の如くに脚色して日本側に送付したところに我輩のご主人のリーダーシップの欠如と見識の無さが図らずも露呈してしまったと言わざるを得ない。
振り返ってみると、残念ながらこの辺りから我輩のご主人の判断力の有無を疑い出したように思う。
一方、この電報を受信した日本側。以下は全て後日知ったことだが……。
意気揚々とベルリン・モスクワから戻った古代外相は留守の間に現地大使館側が彼の思惑とは違う方向に走り出したことに激怒。
日本語案を一読した後、
「中身は米国側の原則に沿った部分と反する部分が混然一体となっているが、米国人は自分の原則を曲げてまで他国と合意することは絶対にしない。これは米国人以外の人間が小手先で作った案ではないか? 日本語案だけではよく分からん。英語の原文があるはずだからそれを至急見せよ」