第一章 ギャッパーたち
(二)天地紗津季
二人はこれを読み、まず、自分たちに落ち度があったとか、訴えられたとか、そういった恐怖に打ち震えるような事態ではなかったことにほっとした。
そして次に権堂栄蔵が亡くなったことに気づき、驚いた。その他に、遺産があるということも見たものの、「何これ?」と思っただけで、それ以上には思考が働かなかった。
二人は、このときは、とにかく栄蔵が亡くなったことがショックで、悲しくて悲しくて、頭の中はただそれだけで一杯になっていた。他のことなどまるで考えられなかったのである。
次の日も、二人は悲しみの中、どうしたらいいのか悩んでいた。まず、本当に亡くなったのかも分からない。こんな紙切れ一枚では真相は分からない。まだ病院なら、何とか会うことができないかと思ったのである。
それでももし本当に亡くなっていたのであれば、今度は、どうやって栄蔵を弔ったらいいのか。また、悩むこととなった。葬儀はとうに終わっている。自宅に行くわけにはいかない。せめてお墓に行きたいが、その場所も分からない。
そこで留美子ははたと気がついた。
そうだ、遺言執行者というこの手紙の弁護士に聞きに行けばいいのだ。栄蔵の遺言を預かっているのだから、当然に本当に亡くなったのか、亡くなったのなら、お墓のことも知っているはずだ。
この時点でも、留美子も紗津季も遺産のことなど、全く眼中になかった。とにかく、栄蔵に会いたかった。もう会えないのであれば遺影に手を合わせたかった。それすらもできないのであれば、せめてお墓に行って弔いがしたかった。
紗津季が長嶋弁護士に連絡をしたのは、書面を受け取ってから一か月後のことであった。
弁護士に聞くしかないとは思ったものの、本当に亡くなったのだということを聞きたくなかった。でもこのままでは先に進めない。本当に亡くなったのなら、ちゃんと弔わなければならない。そう思えるまで一か月もかかってしまった。
そうしてようやく紗津季は、長嶋弁護士の事務所を訪れることにした。それでも、初めて弁護士の事務所に行くのに、一人では怖いと言い、留美子と一緒に行くことにした。長嶋弁護士はもちろん、二人でもいいので是非とも来てほしいと言い、事務所で会うこととなった。
長嶋の弁護士事務所に行くと、出迎えた長嶋弁護士は、もう六十歳を越えた年配であったが、細身で長身の体形でその表情にも威圧感はなかった。テレビで見て想像していたような、眉間にしわを寄せて鋭い目でにらむような強面の表情ではなく、ごく普通のおじさんに見えた。
会議室で対面の席に座ったが、厳しい表情も言葉もなく、親しみのあるやさしい雰囲気で、留美子と紗津季に話し掛けた。