バーバラはゴリラ先生に、何か気の利いたことを言ってあげたかったし、少しでも気持ちが楽になればとも思った。しかし、正直なこと以外は言えそうになかった。
それでもバーバラは「先生、これから山本さんのことは一緒に考えましょう。微力ですが、よろしくお願いします」と告げた。
「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!」
ゴリラ先生の表情が少し、ほぐれた。
十二.スカウト
バーバラは、月末ギリギリになって『健康だより』の原稿を仕上げるタイプだ。
果音はそんなバーバラに、毎回不満を言うのだった。
「もっと早く仕上げてくださいよ」
バーバラは「ごめん、ごめん」とのんきに笑う。
果音にとって、こんなやり取りも嫌ではなくなった。
『健康だより』が完成すると、次の号に取りかかるまでの間、果音は少し暇になる。
暇つぶしで保健室に行ってみるが、そんな日に限ってバーバラは怪我人や病人対応で忙しそうだ。
ろくに話もできそうにない。
(なんだ、つまんない)
家に帰っても、ゲームかスマホくらいしか楽しみがない。
しかも例の一件があってから、スマホは一日一時間だけと決められ、時間になれば母親に取り上げられてしまう。
家に帰ってもつまらないと思いながら、ぶらぶら廊下を歩いていたところ、誰かに呼び止められた。
【前回の記事を読む】イラストの下に書かれた「いつもありがとう」という文字をみつけ、涙で文字がにじんだ