バーバラは驚いて、すぐには言葉が出なかった。

何が正しいのか、とっさに判断しなければならない瞬間であった。

(果音ちゃんの人生は、果音ちゃんのものだ。果音ちゃんの夢も、果音ちゃんのものだ。ゴリラ先生は、正論を述べているのかもしれない。いや、本人は正論だと信じきっている。私にも同じ考えを共有して欲しいと、願っているのだ。どうする、バーバラ?)

バーバラはゆっくりと、なるべく丁寧に話し始めた。

「先生、山本さんはまだ一年生ですし、これから夢も変わるかもしれません。もう少し時間をかけて見守ってあげても、よろしいでしょうか」

「は、はい勿論です。実は、僕一人では少し荷が重いと言うか。あんな事件もありましたし。正直、僕、山本にはあまり好かれていないみたいで……」

バーバラはゴリラ先生も悩んでいることを知った。

ゴリラ先生も一日中、ずっと、生徒のことばかり考えているのだろうなと思えた。

バーバラから見たゴリラ先生は、誠実で責任感も強い先生だが、いつも気が張っているような印象を受ける。また、急に生徒を怒鳴りつけたりすることもある。生徒からは「キレるタイミングが分からない先生」と言われている。

担任だからと、全てを一人で背負ってきたのかもしれない。

きっと、すごく疲れているはずだ。

バーバラは少し心配になった。果音のことは勿論だが、目の前にいるゴリラ先生も大切な存在に思えた。先生の気持ちに余裕がないと、生徒は不安になるからだ。