第1章 山本果音
十.健康だより
バーバラは怪我人の対応や相談、雑務の合間にパソコンに向かう。一か月に一回発行している『健康だより』は、まだ空白が目立つ。バーバラは自分にセンスがないことを自覚していた。毎回『健康だより』はバーバラを悩ませるのだった。
文章だけだと固い感じがし、既成のイラストだとしっくり来ない。やはり手描きがいいと思うが、バーバラには絵心が全くない。そこが毎回、悩ましい。
「あまり読まれてないから、大丈夫」とか「紙の無駄だから、いらないよ」と慰めてくれる生徒もいるが、それはそれでバーバラにとっては辛いのである。悩んでいても仕方ないと思ったバーバラは、保健委員会でこの問題を話すことにした。
簡単なイラストなら、すぐに描ける生徒がいるかも、とかすかな期待を持った。バーバラは、早速、委員会でこの話を投げてみた。しかしバーバラの予想に反して、生徒の返事は皆、消極的であった。
「え、私ムリ~」
「あ、俺も。絵とか超ヘタだし」
「美術部に頼んでみるとかは?」
口々に言う。
「やっぱ、だめか」
バーバラが諦めかけた次の瞬間、かすかに、果音の声が聞こえた。
「あの……。上手くないかもしれないけど、試しに描いてみてもいいですか?」
みんなの視線が果音に集まる。
「いいよ! やってみなよ」
「そうだよ」
「うん。チャレンジしてみたら」
果音は、ただうなずく。