「浄妙飲の法」とは、あまりの快感で生ずる失神を防ぐための、清妙な物を嚥下(えんげ)する(唾液の交換)行為のことで、これらを織り混ぜながら励むことができたなら、二人は同時に絶頂に達することができるのである。もとは、清く妙なるものを飲み下す法という意味の仏教用語。

これが留(とど)めと、亀の前が張形の頭で政子の花壺めがけ、日頃の怨みとばかり力まかせに腰を遣うと、二人は堪らず、遂に金色(こんじき)に彩られた極楽に昇天してしまった。

「九浅一深法の法」は、男子として必ず身に付けなければならないものだから、具体的に説明したい。

この秘伝は本来、中国の房術に現わされた秘戯御法で、陰茎を深く女陰に挿入して息を一つつき、浅くひきだして息を九つつくという方法。その作法は、必ず、女の心情と肉体を燃え上がらせ、交合の快楽の期待に悶えるばかりのものである。

そうすると、女は「はやと物(もの)の怪(け)あれかし」(物の怪が取りついたように乱れる)ようになる。

更に深春(男が指で女陰を弄(まさぐ)ること)をすると、女陰はしとどに濡れてきて男のやる気を倍加させ女の口を十分に吸って興奮を喚起したら、男根を少し挿入し、すぐに抜き取り、今度は男根を上向きに嵌入し、上下へ二三度擦り廻すと、女は快感に体を戦(おのの)かせるが、それは寒夜に氷水を浴びせ掛けた様な感じのものである。

この時、ゆっくりと四五寸(十二~十五センチ)ほど突き入れて擦り廻すのがよい。これを施しながら、九回は浅く入れ、一回は深く突き入れるのが肝要で、この緩急自在の抜き差しを身に付けることができれば、男根の大小など問題ではなく、誰もが美快を与えられて、二三寸ほど短い男根でも、その短小を感じさせることはない。

この技法を百回おこなえば九十九回は快美感を感得できる。そして女が数回も快感の絶頂に至れば愛液も乾いてきて、女は満足気に「もう、十分よ」と言って男の体を押しのけるようになる。

亀の前に対するこうした仕置きが、本当に懲罰を与えたことになったのか、政子にとっては甚だ疑わしかった。

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