カラスのクロ

別れ

「クロはご飯を食べられるかな。食べ物がないと死んじゃうよ」と純二は心配でした。

「何日も帰ってこないときがあったから、クロは食べ物を探して食べることができるから大丈夫だよ」と和夫さんが説得しました。

それで誰もが納得して、残念だけどクロは置いていくことになりました。

出発の日には、春子さんが特別のご馳走を作り、「さよなら、元気でいてよ。また帰ってくるからね」とお別れを言いました。

父の和夫さんは大きなボストンバッグを持っています。子どもたちもそれぞれリュックを担いでいます。カラスのクロはいつもと違う雰囲気を感じたのか、窓を開けているのになかなか飛び出しません。

出発する時刻が近づいたので、父の和夫さんが、「クロは外だよ」と言いながらクロを窓のそばに寄せていきました。クロは向かいの屋根の棟に止まって、じっとこちらを見ていました。

子どもたちの一郎と純二と宏は急かされたので、「さよなら、クロ」と手を振って出掛けたのでした。純二の目には涙が浮かんできました。

長かった夏休みも終わりに近づいて、一家は待兼山の大学会館に帰ってきました。次の日から毎日、窓の外を眺めていましたが、カラスのクロは帰ってきませんでした。1か月間放っておいたのですから、仕方ありません。近所にも聞いて回りました。

「カラスが来ていたけど、エサをあげなかったから、どこかへ飛んでいったよ」と運転手の村江さんが言いました。

父の和夫さんは息子の一郎と純二と宏に、「クロのことだから、きっとどこかにまた棲むところを見つけているよ」と話しました。

母の春子さんも息子たちに、「カラスだって友達みたいになれたのよね。クロと出会えて、ほんとに良かったね」とうなずきました。