黒毛和牛のハナ

ハナとの別れ

しばらくして、牛を売買する業者のトラックが到着(とうちゃく)しました。おばあさんは涙(なみだ)をこらえ切れずに泣いています。使用人の吉田さんもハナのお腹(なか)をさすりながら、目には涙(なみだ)が浮かんでいます。おじいさんは別れが辛(つら)いのか、家から出てきませんでした。

ハナはいつもと違(ちが)う雰囲気(ふんいき)に気がついたのでしょう。家の門から出るのを嫌(いや)がっています。そのうち、ハナは諦(あきら)めたように、業者のトラックの荷台に上っていきました。悲しそうな目をして遠くの山を見ているようでした。トラックが動き出すと、

「さよなら、ハナ。さよなら、ハナ」

と何度も言って、おばあさんはトラックが遠くで曲がって山に隠(かく)れるまで見送っていました。

数週間経(た)って、使用人の吉田さんは、

「私(わたし)も歳(とし)を取りまして、そろそろお暇(いとま)をしたいと思います」

と挨拶(あいさつ)をして、辞めていきました。吉田さんは黒牛が大好きで、ハナの世話が生きがいだったのです。家族のようになっていたハナのいなくなった馬屋(まや)の前を通ると、純二は何かポッカリと穴(あな)があいたように寂(さび)しく感じたのでした。