一郎が、「カラスは畑の作物を荒らしたり、果物を盗ったり、種を掘り返したり、悪いことばかりするけど、上手に付き合えば人間と仲良く生活できるかもしれないね」と言うと、純二も、「クロみたいに、ちゃんと聞き分けのいいカラスもいるからね」と賛成しました。
長かった夏休みもあと少なくなっていました。一郎と純二は宿題をしてしまおうと机に向かいました。
黒毛和牛のハナ
散歩
山田純二が物心ついた頃には、島根のおじいさんの家に黒牛がいました。おじいさんは黒牛が大好きで、ハナと呼(よ)んでいました。天気がいいときには、ハナの鼻輪 にロープを結んで散歩に出掛けます。
家を出て、川沿いを歩いて田んぼを回って帰ります。年月が経って小学5年生になった純二も時々、一緒 に散歩しました。道端の草が伸びていると、ハナは立ち止まって食べようとします。
おじいさんは、「帰ろう、帰ろう」と言いながら鼻輪につないだロープで、ハナの大きなお腹を軽く触ります。すると、ハナはゆっくりと首を上げて、また歩き出すのでした。
純二はおじいさんに頼んでロープを持たせてもらったこともありました。ハナは気がついて首をちょっと曲げて、大きな目で後ろを見ました。
「まあ、いいか」と言っているようにまた歩き始めました。おじいさんの黒牛は近所の家の牛と比べると、ひと回り大きくて、力が強そうでした。
頭には大きな角を持っていて、2本の太い角はほぼ左右対称で内向きに力強く湾曲しています。
角の根元は白く、中ほどは灰白色で、先端は細く黒光りがしています。身体の毛は毎日ブラッシングしてもらっているので、艶がありました。