第一章 ネパールの大地へ

コラム① 高い?安い?値段交渉術

続いてネパール二日目、聖地ボダナートからの帰り。すっかり疲れた私たちは、何の情報も調べないままタクシー運転手と交渉した。ボダナートからタメル中心地まで三〇〇ルピーと提示されたので、少しずつ値切って二〇〇ルピーまで落とした。これくらいでいいだろうと安易に納得し、二〇〇ルピーで交渉成立。お礼を言って、その額を払った。

ところが、ホテルでガイドブックを見てびっくり。八〇ルピーが相場だと書いてあるではないか。よく考えたら、行きは一〇〇ルピー払ってタクシーを降りている。

またしても不覚だった。やはり、事前に調べておくべきだったと大いに反省した。

それにしても、平気な顔で高い値段を告げる彼らはさすがである。悔しいけれども、観光客をしっかり見極めている。

 

さらにリクシャーの人たちは、その五分の一以下の距離でも一五〇ルピーなどと高い値段をふっかけてくる。カトマンズのダルバール広場からそう遠くないホテルまでの移動で一五〇ルピーと提示されたことがあり、「高すぎる。乗らない」と首を振ると、「待って、待って。一〇〇ルピー」と追いかけてきた。

こんなときは「高い。乗らない!」とやや冷たく言い放ち、その場を立ち去ろうとするのが効果的だ。すると、「七〇、五〇、……」と下がっていく。そんな交渉を粘り強く続けるうちに、ようやくこちらが想定していた三〇ルピーで合意。慣れてくると、自分の中でここまで値切るという数字を決めて交渉できるようになってくる。

しかし、実際に乗ってみたら穴だらけのでこぼこ道。周囲の確認をしつつ、ハンドルを巧みに動かしてバランスを取り、重いペダルを精いっぱい踏み込んで進んでいく。彼の太ももの筋肉は、毎日の仕事でさぞ鍛えられていることだろう。坂も多く、だんだん気の毒になってきた。日本のような道なら、もっと楽にすいすい走れるのに。

リクシャーを降りて料金を払うとき、ひどく汗をかいている彼の姿を見て、五〇ルピー渡すことにした。にこっと嬉しそうに笑う顔から、まだ若い青年だとわかった。

このように、ネパールでは何事も直接交渉。人と関わらなければ何も始まらない。でも、人と関わるからこそ旅の思い出にさらなるストーリーが加わり、今でもその状況が鮮明によみがえる。