第二章「天の神様と土の神様」 ゆう
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「やっぱり、会いたい」
由紀は、バスを降りていた。今すぐにでも、誉さんに会いたい──。カバンから携帯電話を取り出し、電話を掛けていた。
「誉さん、今どこですか?」
誉さんは、この前、二人で話をしたカフェにいると教えてくれた。
「そこで待っていてください!」と、私は誉さんにきっぱりと言った。雨は、まだ止む気配はない。でも、それでいい。自分一人で、歩いて行ける。もう、心配されるだけの由紀で居てはだめだ。
やりたいことや言いたいことは、言葉で伝えなければ、相手に届かない。目が見えるとか見えないとかじゃない! 傍にいる大切な人に、ありのままの私を好きになってほしい。
カフェの前に着くと、誉さんが声を掛けてタオルを渡してくれた。近くのお店で急いで買って来てくれたらしい。
さすがに、ずぶ濡れのまま店に入るのは、気が引けるので、雨風凌げる場所を見つけて、二人でベンチに座った。
「あの、もう一度、仕切り直しませんか? 私たちの出逢いを」
私は、ありのままの自分で、一からのスタートを切りたかった。
「初めまして、私は、花城由紀。好きな飲み物は、レモネード。趣味は、陶芸です。あと、陶芸用の土探しも大好きです。よろしくお願いします」
突然のことに誉さんが戸惑っていることは、目が見えない私でも分かる。でも、誉さんなら、きっと私の思いを受けとめてくれると確信めいたものがあった。
「初めまして、俺は、春野誉。サッカーが好きです。カフェモカも好きだけど、俺もレモネード、好きです。まだまだ好きなことがたくさんあるけど、これだけは、今、言わせてください。春野誉は、これから先も、ずっと、ずーっと、花城由紀さんのことが大好きです」
その言葉は、温かくて優しく私を包み込んだ。凍っていた心を溶かしていく春の陽だまりのような言葉だと思った。