「いやはや、あなたが人間の像を壊したのですね」

「ああ、そうだ。私は土の神。私の土を使って、勝手にこんなものを創るとは、許せん。どういうおつもりか?」土の神様は、天の神様に怒った。

「これは、本当に悪いことをした。どうか許してほしい」と、天の神様は、素直に土の神様に謝った。素直に謝ってくれた天の神様の気持ちに免じて、土の神様は、それならいいよ。とお許しになった。

「あなたの土を百年ほど、私に貸してくださいませんか? 人間を創りたいのです」

「それならば、よろしいでしょう」と、土の神様。土の神様から許しをもらった天の神様は、男三人女三人の人間の像に命をふきこんだ。それが、人間の始まり。

「天の神様は、素直な人だったんだね」と誉さん。

「そこ?」と私。

「私は、思う。天の神様が本当に創りたかったものって、きっと人ではなくて、理解者だと思う。自分の思いを受け容れて、協力してくれる理解者。天の神様の場合、一番の理解者は、土の神様だったの。だから、人間は、天の神様と土の神様の子どもなの」

「由紀さんにとって、俺は一番の理解者になれるのかな?」誉さんが不安そうに言う。

「そうだ! あなたのイヤホンを貸してくれませんか? あなたの好きな「Bird」の曲を聴きたいのです」私は笑って、誉さんの方に向き直る。

「それならば、よろしいでしょう」誉さんが土の神様になりきって言う。公園のベンチ。シトラスと伊集の香りが優しく口づけを交わす。

【前回の記事を読む】会って、想いを伝えたい。でもバスの中に彼の姿は感じられなかった…。